錐体路と筋との間で起こっていることとは?

国家試験

臨床現場で活用しよう「錐体路」

今回の記事では、これまで勉強した「点」の知識を、メカニズムの「線」としてつなげていく作業に入ります。つまり、実際に筋を動かすには、どのような経路で人間の体は動いているのか?いわゆる錐体路から筋収縮に至る過程の勉強に入ります。別の記事で解説しました神経の興奮、神経の伝導、神経の伝達、筋収縮について、スタートからゴールまでに起こっていることを説明できるようになることが目標です。これができれば、患者さんに説明する上で重要な知識となるはずです。

それでは、順を追って解説していきます。
スタートは、大脳皮質の一次運動野でしたね。場所は、中心溝(ローランド溝)の前側にある、前頭葉の中心前回にあります。

ここで押さえておきたい知識は、大脳皮質の6層構造です。
わかりますか?すべて答えられますか?

外側にある表層から、以下の通り6層構造になっています。

〜スラスラ言えますか?大脳皮質の6層構造〜

1層:分子層
2層:外顆粒層
3層:外錐体細胞層
4層:内顆粒層
5層:内錐体細胞層
6層:多形細胞層

これは、全て言えるようにして下さい。
その内、第5層目内錐体細胞層ベッツ細胞から神経が下行していきます。

例えば、「膝を伸ばす」という意識が刺激となることで、興奮したベッツ細胞は、その後、Naイオンの流入により、脳から下へ下へと興奮していきます。つまり神経が伝導していきます。

その後、視床とレンズ核の間の内包後脚を通り、中脳の大脳脚を通り、橋の橋縦束を通り、延髄の錐体を通って9割が交叉して(錐体交叉)、脊髄の側索を通って前角細胞でシナプスを作ります。

錐体路とは、前角細胞の手前(前角を含まない)までを言います。上位運動ニューロンとも言いますね。中枢神経のことです。

そして、錐体路は2つあり、
錐体交叉する9割の伝導路を外側皮質脊髄路、残り1割の伝導路を前皮質脊髄路と言います。

外側皮質脊髄路は脊髄の側索を通り、前皮質脊髄路は脊髄の前索を通ります。特に、私たちが今、筋肉を動かしているのは、外側皮質脊髄路からの電気信号によるものです。

外側皮質脊髄路の覚え方として、
運・内・大・橋・錐体で交叉し、側索へ!」です。
(うん・ない・だい・きょう・すいたいでこうさし、そくさくへ!)

私が教員時代に、尊敬する先輩の先生から教わりました。
リズムを作って、声に出して何度も何度も唱えて覚えることがポイントです。この伝導路は臨床実習では必須ですし、国試に出ます!これがわからないと、脳梗塞の患者さんの理解ができません。

その後、錐体路の神経はアセチルコリンを放出し、次の運動神経を興奮させます。神経の伝達です。この運動神経は末梢神経ですね。下位運動ニューロンとも言います。

下位運動ニューロンで起きていることは・・・

運動神経で発生した興奮は移動、つまり伝導していき、アセチルコリンを放出して、シナブスで伝達が起こります。そして、筋線維に活動電位が発生し、T管→ジヒドロピリジン受容体→リアノジン受容体へと情報が伝わり、筋小胞体からCaイオンを放出します。続けて、Caイオンがトロポニンと結合し、トロポミオシンの邪魔がはずれます(立体構造の変化)。最終的に、ミオシンがアクチンに結合し、ミオシン頭部の首振り運動により、アクチンがミオシンに滑り込む滑走説)ことにより筋が収縮する。つまり、先の例で言えば、大腿四頭筋が収縮し「膝が伸びる」のです。筋収縮は、アクチンがミオシンの間に滑り込むことで起こる滑走説により成されているのですね。

これが、1秒とかからない、一瞬のうちに起きているのです。そして、筋を鍛えれば、このスピードは高められます。この極限状態を示してくれるのが、オリンピック、パラリンピックの出場選手なのでしょう。彼らは、全身にある筋を個別にコントロールすることが可能だと言われています。個々の筋を動かすイメージと実際の動きにズレがない状態、それがオリンピアンであり、パラリンピアンなのだと思います。

まずは、筋収縮のメカニズムを一次運動野から図を描いて、説明できるようになって下さい。これは、臨床実習で必要な知識であり、PT国家試験勉強の鉄則です。イメージ作りをしてみて下さい!

患者さんに役立てたい「筋力向上のメカニズム」

錐体路からの「筋収縮のメカニズム」を理解できれば、自分や患者さんの筋力評価、筋力トレーニングに活かすことができます。これは、どういうことでしょうか?

まず、理解しておかなければいけないことを話しておきます。筋力にまつわる脳の役割です。

中枢神経は、脳と脊髄であることは、ご承知の通りです。
この時の脳の役割は、下位運動ニューロンに対して、「命令と抑制」を行っているのです。

〜覚えておきたい「脳の役割」〜

  • 命令:下位運動ニューロンに対して、筋を収縮しろ!と命令している。
  • 抑制:下位運動ニューロンに対して、筋を収縮しすぎず、いい感じで収縮しろ!とブレーキをかけている。いわば、馬のたづなを引いているみたいな感じです。

だから、「抑制」をはずせば、信じられない筋力を発揮することができます。火事場の馬鹿力ですね!人間は、普段は最低限の筋力しか使っていません。それは、省エネで動いているからです。

そして、「抑制」のはずし方として、1つは、筋力を発揮する時に「大きな声を上げる」ことです。よく、陸上の投てき競技やテニスの試合で見られますよね。

また、ピストル音みたいな一瞬の大きな音に対しても、「抑制」ははずれることがわかっています。だから、MMTを測定する際、患者さんに最大筋力を発揮してもらうための工夫が必要です。例えば、患者さんの横で力を入れるタイミングを分かりやすく伝えるために、「いきますよ、せーの、はいっ!」の「はいっ!」のところで大きな声を出してあげると、患者さんに最大筋力に近い筋力を発揮してもらうことが可能であり、正確な力が測定できます。ちなみに、某リハ病院は、大きな声でリハ室が騒がしいそうです。

これが中枢神経系を意識した筋力トレーニングの方法です。脳の抑制を緩めることにより最大筋力を発揮させます。
では、末梢神経系を意識した筋力トレーニングの方法はなんでしょうか?

予備知識として、「運動単位」を説明しておきます。

〜スラスラ言えますか?運動単位とは?〜

運動単位:1つの前角細胞とそれが支配する筋線維群のこと。

通常、1つの前角細胞からは複数の運動神経が枝分かれして、筋線維1本1本を支配しています。前角細胞から運動神経を介する筋線維までをまとめて運動単位と言います。

だから、ヒラメ筋みたいな大きな筋では、筋線維の数が多いので枝分かれが多く、外眼筋みたいな小さな筋では、筋線維の数が少ないので枝分かれが少ないのです。これは、神経支配比と呼ばれるものです。

〜スラスラ言えますか?神経支配比とは?〜

神経支配比:1つの前角細胞が支配する筋線維の数のこと。

例えば、ヒラメ筋では、1つの前角細胞から、数百本の筋線維を支配しています。これを、例えば「1:100」と表したります。神経支配比は大きいですね。また、外眼筋では、1つの前角細胞から、数十本の筋線維を支配しています。これを、例えば「1:10」と表したりします。神経支配比は小さいですね。

先ほど、人間は、普段は最低限の筋力しか使っておらず、省エネで動いていることをお話しました。運動単位も同様で、普段は、1つの前角細胞が支配している筋線維が100とすると、そのうち、20%くらいしか使っていません。しかし、筋力トレーニングを開始し、筋に負荷を与え続けると、それが60%くらいになる。さすがに100%近くなると筋が消耗してしまい、怪我につながります。そのため、筋力トレーニングをしても、一応、抑制はかかっているのです。

ちなみに、短期的に筋力が高まるのは、神経系の影響による筋力向上です。普段眠っていた筋線維を、筋力トレーニングによって目覚めさせたのですね。数日〜1か月以内に効果が出てきます。高齢者に筋力指導をすると、短期的に筋力向上するのは、この影響です。

これは、先ほど述べた脳の抑制を緩めることにも関連しています。抑制を緩めるとは、普段眠っていた筋線維を目覚めさせることです。ピストル音や大きな声は、多くの筋線維を一瞬にして目覚めさせます。同様に、普段使っていない筋肉に、運動という刺激を加え続けると、眠っていた筋肉は活動を開始します。

だから、家に引きこもっていた高齢者に筋力トレーニングを行うことで、数日の内に筋力向上が認められます。この神経系の働きを活用して介護予防を進めていくのです。

さらに筋トレを続けていくと、今度は1本1本の筋線維は肥大化していき、筋全体の断面積は大きくなります。筋肥大による筋力向上です。2〜3か月で効果が出てきます。筋力は、筋の断面積に比例することは、科学的に実証されています。

理学療法評価において周径を測定しますが、これは筋力測定したMMTの結果を裏付けするデータであり、今後のリハビリによる筋力向上の効果判定に活用することにもつながります。MMTと周径は筋力を評価する上でセットとして考えておく良いと思います。

まとめ

今回説明した、脳で発生した興奮が筋肉を動かすまでの一連の流れは、自分の体を通してイメージして、声に出して説明できるようになるまで勉強して下さい。なぜなら、臨床現場で患者さんに説明する時に役立つからです。解剖学、生理学、運動学、引いては栄養学に至るまでの知識を備えておけば、患者さんにとって信頼のおけるPTになれるはずです。

何度も何度も繰り返してインプットし、それを声に出してアウトプットできると、記憶は長期記憶へと移行し、定着に至るのです。

筋力トレーニングはやめてしまうと、当然、すぐにトレーニング前の元の状態に戻ってしまいます。筋力トレーニングはやはり継続が必要です。これは、勉強も同じだと思います。頑張りましょう!

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