知識の「点」をメカニズムの「線」につなげる勉強とは?
私は、国家試験の勉強を進めていく上での良書としてクエスチョンバンク(QB)をオススメしています。この本は、国家試験の問題とそれを解く上での背景がわかりやすい図としてまとめられているからです。つまり、QBで勉強することは知識をつけるための「点」を作る勉強です。このことは、別の記事「最短で合格を目指す!理学療法士国家試験を効率的に勉強する方法とは?」で解説しました。
しかし、人体の構造はそんな単純なものではありません。解剖学と生理学が綿密につながりを持って構成され、実に、効率的に活動しているのです。だからこそ、QBを使って「点」を作る作業と並行して、それらの知識とつなげていく「線」の勉強も必要となるのです。
具体的には、解剖学、生理学は相互に関係しています。本来、別々に勉強するものではありません。例えば、消化の仕組みを勉強するにしても、消化器の解剖学をおさえた上で、食べ物がどのように分解・吸収されていくかの生理学を同時に勉強していきます。この仕組み(メカニズム)を理解することこそ、「点」を「線」につなげていく作業なのです。つまり、仕組みの理解が最終ゴールとなるのです。
神経の興奮を勉強するにしても同様です。以下に示す、基本中の基本を「点」として知識を増やし、増やした知識を「線」にしてつなげていきます。
神経系の大まかな全体像を理解することの重要性
それでは、臨床実習を行う前の人やこれから実習を行う人もいると思いますので、国家試験の神経系から勉強していきましょう!ポイントは神経系の大まかな「全体像」を理解することです。それをチャックする質問を、以下に記します。下の質問を読んで、頭にイメージが浮かび、整理した状態で答えられるでしょうか?
全部で8問です。それではやっていきましょう!
Q 1.人体において神経系とは何で構成されていますか?
答えは、中枢神経系と末梢神経系です。
Q 2.中枢神経系とは何で構成されていますか?
答えは、脳と脊髄です。
Q3.脳とは何で構成されていますか?
答えは、大脳、間脳(視床、視床下部)、中脳、小脳、橋、延髄です。
Q4 .脊髄とは何で構成されていますか?
答えは、頸髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄です。
Q5 .末梢神経系を「場所」で分類すると何がありますか?
答えは、脳神経と脊髄神経です。
Q6 .末梢神経系を「働き」で分類すると何がありますか?
答えは、意識できる末梢神経が体性神経で、意識できない末梢神経が自律神経です。
Q7 .体性神経には何がありますか?
答えは、中枢へ向かっていく求心性神経の感覚神経と中枢から離れていく遠心性神経の運動神経です。
Q8.自律神経には何がありますか?
答えは、「闘争と逃走」で働く交感神経と「休息と消化」で働く副交感神経です。
どうでしょう?答えられたでしょうか?
ちなみに、この質問を以前働いていた学校の4年生に質問しても正確に答えられませんでした・・・(悲)。神経系の勉強をする上で、教科書の最初に書いてあり、大部分の学生さんは読み飛ばしてしまいがちですが、このような基本をおろそかにしていると、より複雑な内容を学ぶ応用ができなくなるのです。
今回の場合、PT国家試験に出題される神経の種類といった大まかな全体像を理解した上で、それぞれの神経、例えば末梢神経→運動神経→神経の構造といった細かな知識まで掘り下げてい流れです。まずは、神経系をどこまで勉強する必要があるのかの全体像を把握し、その範囲内で細かな部分に焦点を当てて勉強していくことが必要だと思います。
また、別の視点から神経系は、以下の全体的な流れを大まかにイメージできなければいけません。すなわち、
〜人体における神経系の反応経路〜
刺激を受容器(皮膚)で受け取り、末梢神経(感覚神経)を介して中枢神経に送る。そして、その刺激を中枢神経が認識して、再び末梢神経(運動神経)を介して効果器(筋)で反応を起こす。
・・・のような感じです。
これも全体像です。この流れをイメージするには、先ほど質問した神経が、それぞれ何を意味しているのかを正確に理解しておかなければいけません。
私が上記をノートにまとめると、以下のようになります。
PT国家試験の効率的な勉強法は、問題を解く時に全体的なイメージができるか?これがポイントです。是非とも、分かりやすい図を参考に、もう一度先の質問に答えながら、その神経がどこにあるのかをイメージできるようにして下さい!このイメージができるようになると、神経の勉強しながら、理学療法士の仕事に直結する筋収縮のメカニズムが容易に理解できるようになります。
「神経の構造」を理解し、そこで起こっていることを理解する
神経系の大まかな全体像が理解できたら、この知識を使いながら筋が収縮するまでの流れを理解していきます。そのため、次にやるべきことは神経の構造の理解です。大まかな神経の構造を把握し、そこから知識を掘り下げていきます。
神経は、受容器と中枢、中枢と効果器を結ぶ組織でしたね。
それでは、また質問です。
Q .神経(ニューロン)は、何で構成されていますか?4つ+1つで答えて下さい。
答えは、細胞体、樹状突起、軸索、神経終末です。+1は髄鞘です。
神経(ニューロン)とは、細胞体から短い樹状突起と長い軸索の2つの突起物が出ている構造です。そして、軸索に髄鞘がある有髄神経と髄鞘がない無髄神経があります。これが神経の構造の全体像です。まずこれを頭の中でイメージして下さい。ここから知識を掘り下げていきます。
人体に何らかの刺激が入った時、神経内に電気が発生し、この電気が移動することで刺激の情報が伝えられます。では、電気とはどのようなメカニズムで発生するのでしょうか?
ここで重要なポイントは、神経に電気を発生させるためは前提条件があるということです。
それが静止電位です。
「静止電位」を発生させるための前提条件とは?
神経系の情報のやり取りは、電気か化学物質しかありません。神経内での情報のやり取りは電気を発生させることで行うため、ここでは神経内に電気を発生させるメカニズムについて解説していきます。そして、電気を発生させるためには、前提条件を整えておくことが必要です。それが静止電位です。
静止電位を理解するためには、いくつか予備知識が必要です。
まずは、以下の用語を理解して下さい。
まずは、チャネルとポンプという言葉です。
〜神経の内外から物質をやり取りするための重要なタンパク質〜
- チャネル:
エネルギーを使わず、濃度勾配に従って物質をやり取りするトンネル(タンパク質) - ポンプ:
エネルギーを使って、濃度勾配に逆らって物質をやり取りするトンネル(タンパク質)
チャネルやポンプは、細胞膜に存在します。ちなみに、これらのトンネルは、タンパク質です。
エネルギーとは、ATP(アデノシン三リン酸)です。車を動かすガソリンみたいなものと思って下さい。
濃度勾配とは、濃度の高低差のことです。通常、物質は「濃い→薄い」へ移動します(自然界の大原則)。これを拡散(受動輸送)と言います。例えば、コーヒーにミルクを注いでみて下さい。ミルクはコーヒーより濃度が濃いため、自然と広がる光景を見ることができるでしょう。つまり、濃度勾配に従うとは、物質が「濃い→薄い」へ移動することです。
これを生体で見てみましょう。
生体では、細胞の内側にはKイオンが多く存在し、外側にはKイオンが少し存在します。細胞膜にKイオンしか通さない専用のトンネル(チャネル)でつなぐと、濃度勾配に従って、濃度の濃い内側のKイオン→薄い外側へと移動し、内外の濃度は均等になります。内側のKイオンが拡散した結果です。
チャネルは、濃度の高低差に従って、エネルギー(ATP)を使うことなく、濃度の「濃い→薄い」方向に物質を移動させるトンネルです。
一方、ポンプは全く逆の働きをします。先程、例に出したKイオン。細胞膜をポンプでつなぐと、濃度勾配に逆らって、濃度の薄い外側のKイオン→濃い内側へ移動し、内側の濃度がさらに濃くなります。このような物質の移動を能動輸送といます。
ポンプは、濃度の高低差に関係なく、エネルギー(ATP)を使って一方的に濃度の「薄い→濃い」方向に物質を移動させるトンネルです。
〜用語の確認:受動輸送と能動輸送のまとめ〜
- 受動輸送:エネルギーを使わず、濃度勾配に従って、物質を移動させる輸送方法。物質は濃度の「濃い→薄い」方向に移動する。生体では拡散とも呼ばれ、チャネルで行われる。
- 能動輸送:エネルギー(ATP)を使って、濃度勾配に逆らって、物質を移動させる輸送方法。物質は濃度の「薄い→濃い」方向に移動する。生体ではポンプで行われる。
このチャネルとポンプの仕組みを理解しておけば、静止電位を発生させるメカニズムを理解できます。ひいては、神経(ニューロン)内に電気が発生するメカニズム、すなわち活動電位を発生させるメカニズムも理解できます。
なかなか理解できない「静止電位」とは?
次に、静止電位を理解する上でポイントとなる専用のチャネル、ポンプ、イオンについて理解して下さい。静止電位に登場する物質は以下の通りです。
〜静止電位を理解する上で覚えておきたい用語〜
- K漏洩チャネル(カリウムろうえいチャネル):
Kだけを通すトンネル。常に開きっぱなしのトンネル。 - Na-Kポンプ(ナトリウム-カリウムポンプ):
Naを細胞の外へKを細胞の中へエネルギー(ATP)を使って一方的に移動させるトンネル。エネルギーが無くなるまで、動き続ける。
ちなみに、以下も予備知識として理解しておいて下さい。
〜細胞内外に存在する重要なイオン〜
- Naイオン(ナトリウムイオン)とKイオン(カリウムイオン):
いずれも、プラスの電気を持ったイオン。これらのイオンは、一般的にはミネラルと言われている。 - Clイオン(塩化物イオン・クロライドイオン):
マイナスの電気を持ったイオン。NaイオンやKイオンと同様ミネラルの一種。食塩はNaClで表され、生体内では分解されてNaイオンとClイオンとして存在する。
では解説していきましょう。
通常、細胞内外には、主にNaイオンとKイオンといったプラスイオンとClイオンといったマイナスイオンが存在し、体液のバランスを保っています。
神経細胞においては、細胞の内側にKイオン、外側にNaイオンが、Na-Kポンプの強制的な物質輸送(能動輸送)によって維持されています。教科書的には、1回の輸送でNaを3つ外に出し、Kを2つ内に入れるのを同時に行っています。だから、何も刺激が入っていない細胞は、常に外側にNa、内側にKが多い状態に保たれています。
ただ、Na-Kポンプの横にK漏洩チャネルがあることによって、せっかく中に入ったKイオンは、濃度勾配に従って(拡散して)、外に出て行ってしまうのです。すると、もともと細胞外にあるNaイオン、K漏洩チャネルにより外に出たKイオンによって、外側のプラスのイオンが内側に比べて多く存在することになります。ここがポイントです。
神経の細胞膜は、リン脂質二重層により電気を通さない絶縁体です。KイオンがK漏洩チャネルによって外側に出ていってしまうと、細胞内のプラスイオンが減ってしまいます(細胞外にはプラスイオンが増える)。細胞内にはClイオン(マイナスイオン)も存在するため、結果として、細胞の外側はプラス、内側はマイナスの状態が作られるのです。
つまり、Kイオンが外側に放出されるのは、細胞内が-70mVになるまでです。これは、細胞外を0mVとして算出された数値です。細胞内が-70mV程度でKイオンは外側のプラスイオン群の電気的な反発により放出が止まります。この細胞外がプラス、細胞内がマイナスといった電気的な偏り(電位差)が生まれる状態のことを静止電位と呼びます。
神経内に電気を発生させるためには、神経の内側がマイナス極、外側がプラス極のように別々に配置しておく必要があります。なぜなら、プラスとマイナスは互いに引き合うため、そこには電気的な力(クーロン力)が存在しているはずです。したがって、静止電位は神経内に電気を発生させるための前提条件になるのです。ポイントは、Kイオンが静止電位をコントロールしていることです。
静止電位については、イギリスの科学者がイカの神経細胞内に電極を刺して計測したことからわかりました。そして、この功績により、ノーベル賞(医学・生理学)を受賞したそうです。
なかなか理解できない「活動電位」とは?
静止電位とは、細胞内に電気が発生していない状態です。そして、静止電位は、Kイオンによりコントロールされていることが理解できたと思います。
次に、細胞内は、どのようにして電気を発生させているのかを考えていきたいと思います。
今回、登場する人物(組織)は、以下の通りです。
〜活動電位を理解する上で覚えておきたい用語〜
- 電位依存性Naチャネル(でんいいぞんせいナトリウムチャネル):
電気刺激によって、門が開くNa専用トンネル。刺激がない時は、門は閉まっている。開閉パターンは、素早く開き、素早く閉じる。 - 電位依存性Kチャネル(でんいいぞんせいカリウムチャネル):
電気刺激によって、門が開くK専用トンネル。刺激がない時は、門は閉まっている。開閉パターンは、ゆっくり開き、ゆっくり閉じる。
静止電位の復習として、以下にポイントをまとめます。
〜静止電位が作られるメカニズム〜
- 通常、生体は細胞の内側にKイオン、外側にNaイオンが、Na-Kポンプの能動輸送によって維持されいる。
- しかし、K漏洩チャネルがあることで、せっかく中に入ったKイオンが、濃度勾配に従って拡散し、外に出て行ってしまう。
- つまり、Kイオンによって、細胞の内側は外側に比べて相対的にマイナス(約-70mV)の状態が作られている。これを静止電位と言う。
さて、本題です。
神経細胞膜に何らかの刺激(痛みを感じるなど)が加わると・・・神経の細胞膜にゆがみが生じます。このゆがみは、電気的なバランスを崩すものです。細胞内のマイナスがプラス方向に変化してしまう反応です。
細胞膜への刺激の強度が、ある程度の強さに達すると・・・つまり、-70mV→-50mVくらいに達すると、まず、電位依存性Naチャネルが素早く開きます。すると、どうでしょう?もともと細胞の外側にはNaイオンが多く存在していました。そこで、電位依存性Naチャネルが素早く開いた瞬間、外側のNaイオンが濃度勾配に従って拡散し、一気に内側へ流入してきます。
そうなると、今度は外側に対して内側がプラスの状態が作られ、これにより細胞内に電気が発生するのです。この外側に対し内側がプラスになった状態のことを活動電位と言います。そして、活動電位が発生することを神経の興奮と言います。
ポイントは、活動電位はNaイオンがコントロールしていることです。さらに、活動電位を発生させる、別の言い方をすれば、神経の興奮が起こる最低限の強さ(強度)を閾値と言うことも覚えて下さい。
電位依存性Naチャネルは素早く開き、素早く閉じるので、Naイオンの流入はすぐに止まります。この時、同時に電位依存性Kチャネルがゆっくり開き、ゆっくり閉じようとしているので、Kイオンは濃度勾配に従って拡散し、内側から外側へ流出していきます。そして、電位依存性Kチャネルが閉じた時には、は、細胞内は元の静止電位の状態に戻っていきます。ここまで理解できたでしょうか?
まとめ
神経の興奮のポイントは、「静止電位」はKイオンによりコントロールされ、「活動電位」はNaイオンによりコントロールされている、ということです。これら2つのイオンは、世間ではミネラルと呼ばれます。つまり、ミネラルが不足すると神経系に異常が生じます。熱中症は、汗でこれらミネラルがなくなるので、神経系に異常が生じるのです。
以上、神経の興奮を簡単にまとめます。
〜「神経の興奮」を理解する上でのポイント〜
- 神経が活動していない、いわゆる静止状態では、Kイオンが流出することにより静止電位が作られている。
- 神経に刺激が加わると、Naイオンが流入し、細胞内がプラスとなり活動電位が発生(電気が発生)する。
- 活動電位が発生することを神経の興奮と言う。興奮はわずか数ミリ秒間である。ちなみに、1ミリ秒は、1秒の1000分の1なので、本当に一瞬の出来事。
わかりにくいようでしたら、図を描いてみて下さい。そして、静止電位と活動電位を説明できるようになって下さい。国家試験の勉強は、とにかくイメージ作りです。
私が静止電位と活動電位の発生メカニズムをノートにまとめると、以下のようになります。
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