神経伝導の鍵は「電気」、神経伝達の鍵は「化学物質」
神経への刺激で細胞内がプラスになった(興奮した)神経のその後は・・・
以前説明した記事「神経系とは何か? まずは、神経系の基本を大まかに理解し、「神経の興奮」まで掘り下げていく」や「「神経の伝導」にまつわる話。不応期、跳躍伝導、脱髄疾患、脱分極を理解する。」では、神経が興奮し、伝導していく流れを解説しました。
ここからは、神経終末まで到達したプラスの電気が、その後どうなるかを説明していきます。
すなわち、神経の伝達です。
神経の伝達に関係する登場人物(組織)は以下の通りです。
〜神経の伝達を説明するのに必要な用語〜
- 電位依存性Caチャネル:電気刺激によって門が開くCa専用トンネル。刺激がない時は、門は閉まっている。
- 神経伝達物質:神経細胞間をやり取りする化学物質。ここではアセチルコリンのこと。
- シナプス小胞:アセチルコリンを貯めておく袋。神経終末に存在する。
- エキソサイトーシス:開口分泌。袋が細胞膜と融合し、中身が外へ出る現象。
- シナプス:神経と神経とのすき間。
- 化学物質依存性Naチャネル:化学物質によって門が開くNa専用トンネル。化学物質がトンネルに結合している間は門が開くが、結合が取れると門は再び閉じる。いわば鍵のようなもの。ここでの化学物質はアセチルコリン。
- 受容体:物質を受け取る受け皿。
そして、以下で解説する順番が神経の伝達のメカニズムです。この流れを覚えて下さい。
〜流れを覚えておきたい「神経伝達」のメカニズム〜
- 神経終末まで到達したプラスの電気は、電位依存性Caチャネルを刺激。
- 電位依存性Caチャネルが開き、細胞外にあったCaイオンが神経終末に流入。
- Caイオンがシナプス小胞を刺激。
- シナプス小胞が神経の末端にいっせいに移動。
- エキソサイトーシスにより、シナプス小胞内にあったアセチルコリンが細胞外へ放出。
- アセチルコリンがシナプスを移動。
- アセチルコリンが、隣の神経細胞にある化学物質依存性Naチャネルの受容体に結合。
- Naチャネルが開き、細胞外にあったNaイオンが細胞内(正確には樹状突起内)に流入。
- 隣の神経細胞(樹状突起部分)に活動電位が発生(神経の興奮)。
1〜9の順番により、隣の神経へ無事に電気を移動させることができました。
このシナプス間の電気のやり取りを神経の伝達と言います。シナプスの特徴は一方向性(一方通行で逆行はしない)ということです。
神経の伝導は両側性の特徴がありましたが、シナプスでは一方向性なので、結局、神経が何本もつながっていても、電気は細胞体から神経終末に向かって流れていくのです。
生体内の情報を伝える手段は、電気(興奮による)か化学物質(神経伝達物質やホルモン)しかありません。そして、神経の伝達という現象は、神経伝達物質という化学物質によって神経間の電気のやり取りをしているのです。「伝導」と「伝達」の言葉の違いを理解しておいて下さい。
ちなみに、化学物質依存性Naチャネルの受容体に結合したアセチルコリンは、その後、分解されるか、再び放出した神経により回収されてしまいます。ずっと受容体に結合したままだと、トンネルの門は開いたままで、Naの流入は止まらず、神経が興奮しっぱなしですからね。
教科書にある「シナプス後電位」とは?
通常は、1本の神経と1本の神経が1つのシナプスを作ってつながっているわけではありません。例えば、複数の神経が、1本の神経につながっているもの(収束)や、1本の神経が、複数の神経につながっているもの(発散)などにより、生体には、複数のシナプスが存在しています。
いずれにしても、後ろの神経を興奮させるためは、個々のシナプスで発生する電気の合計が、閾値を超える必要があります。
「ししおとし」って知っていますか?
竹筒でできていて、水が一定量たまると、その重みでカクっと頭を下げ、元に戻るヤツです。よく日本庭園で見かけます。あの原理で、興奮(プラスの電気)が一定量たまって、閾値を超えると活動電位が発生し、伝導→伝達により後ろの神経に活動電位を発生させる、というわけです(脱分極)。この時、後ろの神経に伝わったプラスの電気は、興奮性シナプス後電位と言います。
興奮があれば、抑制もあります。
塩化物イオン(Cl−:クロライドイオンとも言う)のようなマイナスのイオンが、Naイオンの代わりに、細胞内に流入すると、後ろの神経は抑制されます(興奮が起きません:過分極)。この時、後ろの神経に伝わった電気は、抑制性シナプス後電位と言います。
理学療法士として知っておきたい「筋収縮のメカニズム」
神経の伝導と神経の伝達がわかれば、神経と筋の伝達様式もすぐに理解できます。神経と筋の伝達は、途中までは、神経間の伝達と同じだからです。以下に、神経筋接合部で起こる現象を説明していきます。
筋側にも電位依存性Naチャネルがあり、アセチルコリンが受容体に結合することでNaチャネルが開き、細胞外にあったNaイオンが筋線維内に流入し、筋線維の表面に活動電位が発生します。
では、筋線維に発生した活動電位(プラスの電気)はその後どうなるでしょうか?
筋収縮のメカニズムに登場人物(組織)は、以下の通りです。
〜筋収縮のメカニズムを説明するのに必要な用語〜
- 神経筋接合部:神経と筋とのすき間。
- T管:横行小管ともいう。筋原線維に付着しているプラス(+)の電気の通り道。
- ジヒドロピリジン受容体:T管と接している受容体。T管からの情報をリアノジン受容体に伝える。
- リアノジン受容体:筋小胞体に付着している受容体。Caイオンが放出される時の出入り口。
- 筋小胞体:Caイオンを貯めておく袋。筋原線維を包んでいる。
- アクチンフィラメント:筋原線維を構成する細いタンパク質。Caを受け取るトロポニンが存在する。
- ミオシンフィラメント:筋原線維を構成する太いタンパク質。先端には、ATPを使ってアクチンフィラメントを引き込むミオシン頭部(ミオシンヘッド)がある。
- トロポニン:アクチンフィラメントに存在するタンパク質。Caと結合できる。
- トロポミオシン:アクチンフィラメントに存在し、通常はミオシンが結合するのを邪魔しているタンパク質。
そして、以下で解説する順番が筋収縮のメカニズムです。
アセチルコリンが神経筋接合部に放出されるところまでは、神経の伝達と同様です。
〜流れを覚えておきたい「筋収縮」のメカニズム〜
- アセチルコリンが神経筋接合部を移動。
- アセチルコリンが、筋線維の細胞膜にある化学物質依存性Naチャネルの受容体に結合。
- Naチャネルが開き、細胞外にあったNaイオンが筋線維内に流入。
- 筋線維に活動電位が発生(興奮)。
- 活動電位(プラスの電気)は、T管内を移動。
- プラスの電気がジヒドロピリジン受容体を刺激。
- ジリドロピリジン受容体からリアノジン受容体へ情報が伝達。
- リアノジン受容体の門が開き、筋小胞体からCaイオンが放出。
- Caイオンがトロポニンと結合することで、トロポミオシンの立体構造が変わり(邪魔がなくなり)、アクチンとミオシンにすき間が生まれる。
- ATPを使ってミオシン頭部がアクチンと結合。
- ミオシン頭部の首振り運動により、アクチンを引き込む。
- ミオシンの間にアクチンが滑り込み、筋収縮が起こる(滑走説)。
以上が、筋収縮のメカニズムです。
ちなみに、
2.アセチルコリンが、筋線維の細胞膜にある化学物質依存性Naチャネルの受容体に結合。
これが正常ですが、アセチルコリンが邪魔されて受容体に結合できない病気を重症筋無力症と言います。この疾患もPT国試頻出なので、病態を整理し、勉強しておいて下さい!
まとめ
理学療法士として、筋力トレーニングを患者さんに指導するには、筋収縮のメカニズムは知っておかなければいけません。もちろん、その意味から、PT国家試験にも出題されます。
今回説明した、神経伝達、神経筋接合部での伝達、筋収縮のメカニズムはPT国家試験においては非常に重要であり、図を描いて、誰かに説明できるようになるまで理解する必要があります。この知識を使って神経や筋に関係する病気の理解をしなければならないですし、臨床現場では患者さんに有効な筋力トレーニング法についての説明をしなければならないのです。
「筋収縮のメカニズム」のような基礎医学をしっかり学んでおくことが、病気の理解と言った臨床医学の理解につながります。もちろん、基礎の理解が、将来的に新たなトレーニングの開発といった発展にもつながるものだと思います。だからこそ、しっかり勉強して下さいね。
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