運動学習で重要となる「小脳」の働き
理学療法士を目指す学生さんや新人理学療法士さんにとって、感覚系の勉強はつまらないし、後回しにしがちです。しかし、理学療法の臨床現場においては、感覚系の知識は非常に重要であり、特に、今回のテーマである意識できない深部感覚は、運動の専門家である理学療法士にとっては、是非とも身に付けておきたい知識です。
別の記事「皮膚の構造を覚える。そして、感覚受容器の種類を覚える。」の中で、意識できない深部感覚(非識別性深部感覚)について、筋・腱の長さの変化を感知する感覚と説明しました。
ここでの意識とは何でしょうか?
例えば、自分が今行っていることや、自分の体が今どうなっているかは、当然、頭ではわかっていますよね。これを意識と言います。この意識は、大脳皮質で生まれます。
振動覚や位置覚・運動覚といった意識できる深部感覚は、末梢から大脳皮質の一次感覚野まで到達し、自分の今の状態を意識しているのです。
では、意識できない深部感覚はどうでしょう?
例えば、何かにつまずいた時、身体は転倒しないように反応しますよね。この時、全身の筋は、突然のつまずきにより、一瞬、筋の長さが引き伸ばされます。そうなると、転倒しないように筋収縮を行い、身体をまっすぐに保とうとします。わずか1秒以内の出来事です。当然、頭で考えていたら、このような素早い動きはできません。
つまずいてから、身体をまっすぐに保とうとする反応は無意識に行われます。つまり、これが意識できない深部感覚です。そして、突然のつまずきによって起こる筋長の変化は、筋紡錘で感知します。したがって、意識できない深部感覚の受容器は筋紡錘になります。ここがスタートです。
では、筋紡錘からの刺激はどこに向かうでしょうか?
意識は大脳皮質で生まれるので、向かう先は大脳皮質ではありません。
答えは、小脳です。
ここで、小脳のポイントを質問形式で確認していきましょう!
ちなみに、小脳の解剖(小脳半球や虫部など)については、良く勉強しておいて下さい。
Q1.小脳皮質は何層構造ですか?
答えは、3層構造です。
外側から分子層、プルキンエ細胞層、顆粒層です。
Q2.小脳核を4つ答えられますか?
答えは、中心から室頂核、球状核、栓状核、歯状核です。
「室長(頂)、休(球)戦(栓)し(歯)ましょう!」と覚えて下さい。
Q3.小脳脚を3つ答えられますか?
上小脳脚、中小脳脚、下小脳脚です。
ちなみに、小脳脚のポイントは、以下の通りです。
〜覚えておきたい!小脳との連絡路:小脳脚〜
- 上小脳脚は、中脳と小脳の連絡線維
- 中小脳脚は、橋と小脳の連絡線維
- 下小脳脚は、延髄と小脳の連絡線維
小脳脚は、脳の矢状面の解剖図が書けて、イメージすることができればすぐわかります。
ちなみに、小脳脚とは束状の神経線維のことです。
よって、意識できない深部感覚は、筋紡錘で感知し、小脳へ情報を伝える感覚のことです。この経路を脊髄小脳路と言います。
最低限、小脳の解剖をおさえ、上に挙げた質問には、即答できるようになっていて下さい!
次は、脊髄小脳路を簡単にまとめます。
「非識別性深部感覚=脊髄小脳路」です!
別の記事「感覚系の伝導路は、ポイントを整理して覚える!」では、感覚の種類と3つの経路を解説しました。
〜必ず覚える!感覚系の伝導路〜
- 温痛覚=外側脊髄視床路
- 粗大触圧覚=前脊髄視床路
- 微細触圧覚・意識できる深部感覚=(脊髄)後索路
この3つの経路に加え、4つ目の経路である
4.意識できない深部感覚=脊髄小脳路
を覚えれば、国試に出る伝導路は問題なく答えられます。
さて、意識できない深部感覚=脊髄小脳路は、どのような道をたどるのでしょうか?
大まかな流れは、以下の通りです。
〜スラスラ言えるか?意識できない深部感覚=脊髄小脳路の流れ〜
- 例えば、何かにつまずきいてバランスを崩した時、筋は一瞬引き伸ばされます。これを「筋紡錘」が感知し、感覚神経に活動電位が発生(興奮)します。
- 興奮は脊髄後根から脊髄に入り、後角細胞から中枢神経に興奮が「伝達」します。
- 後角細胞から中枢神経に伝達された興奮は、脊髄を交叉せずに、入った側の「側索」を上行していきます。
- その後、興奮は延髄を経由し(下小脳脚)、同側の小脳に情報を伝えます。
「筋紡錘→小脳」、これが脊髄小脳路です。
筋紡錘からの情報は、大脳皮質にはいかないので”意識できない”のですね。脊髄小脳路については上肢と下肢で若干経路が異なりますが、この点はPT国試には出ません。ただ、脊髄小脳路には、前脊髄小脳路と後脊髄小脳路があることだけは覚えておいて下さい。
これで、以下の通り、PT国試に出る感覚の伝導路は揃いました。
〜必ず押さえる!PT国試に出る感覚の伝導路〜
- 外側脊髄視床路=温痛覚
- 前脊髄視床路=粗大触圧覚
- (脊髄)後索路=微細触圧覚・識別性深部感覚
- 脊髄小脳路=非識別性深部感覚
この4つの伝導路は、図が書けるように!説明できるように!何度も何度も繰り返し勉強して下さい。この図を書くというアウトプットが国試勉強の基本です。常に言い続けます!!
ちょっと複雑な小脳機能
最後は、小脳機能について確認しておきます。
小脳については、教科書的には、運動を円滑に行ったり(協調運動)、運動を体で覚える(運動学習)といった機能があることを勉強したと思います。
では、具体的にはどうなっているのか?
以下に、ポイントをまとめてみました。先ほどお話した脊髄小脳路にも関係しています。
では、具体的に説明していきます。
例えば、自転車に乗ろうとする時を想像してみて下さい。
〜イメージできるか?小脳が働く流れ〜
- 大脳皮質から錐体路をにより四肢に運動を指令します。
- 四肢への運動指令と同時に橋から中小脳脚を介して小脳核へ信号が送られます。この信号は視床を介して 大脳皮質に対して運動の微調節に働きます。
- この時、上記2と同時に橋から中小脳脚を介して顆粒細胞に送られた信号は、プルキンエ細胞へ渡り、小脳核に対してブレーキを強くしたり、弱くしたりすることで、上記2の経路をコントロールしています。
- 上記1〜3で、運動に対するブレーキの強弱が過剰になると、当然、自転車がよろけてしまいます。この「よろけてしまう動作」は、筋紡錘を刺激し脊髄小脳路から延髄の下オリーブ核に情報を伝えます。
- 延髄の下オリーブ核から下小脳脚によってプルキンエ細胞へ情報が伝わり、再度、プルキンエ細胞から小脳核に対しブレーキングが行われます。
- 上記1〜5を繰り返すことにより運動学習が成立し、自転車に乗ることを体で覚えるのです。これを手続き記憶と言います。
そして、PT国試では、以下のような問題が出ます。
Q1.小脳へ入力する神経線維は何か?
答えは、苔状線維(橋から出る神経線維)と登状線維(延髄の下オリーブ核から出る神経線維)です。
Q2.小脳(皮質)から出力する神経細胞は何か?
答えは、プルキンエ細胞です。
小脳系は、臨床実習でかなり重要となる知識です。なぜなら、リハビリは運動学習を基礎に行う行為だからです。だからこそ、国試には毎年出題されるのです。「脊髄小脳路」に関連させながら、小脳機能のメカニズムを繰り返し勉強して下さい。
まとめ
非識別性深部感覚=脊髄小脳路のポイントを簡単にまとめると、以下の通りです。
〜必ず押さえる!非識別性深部感覚=脊髄小脳路のポイント〜
- バランスを崩して、筋が一瞬引き伸ばされる
- 「筋紡錘」が感知し、感覚神経に活動電位が発生(興奮)
- 興奮は脊髄後根から脊髄に入り、後角細胞から中枢神経に興奮が「伝達」
- 後角細胞から中枢神経に伝達された興奮は、脊髄を交叉せずに、入った側の「側索」を上行
- 延髄を経由し(下小脳脚)、同側の小脳に情報を伝える
「筋紡錘→小脳」、これが脊髄小脳路です。
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