「神経の伝導」にまつわる話。不応期、跳躍伝導、脱髄疾患、脱分極を理解する。

国家試験

ミネラルによってコントロールされている神経系

別の記事「神経系とは何か?まずは、神経系の基本を大まかに理解し、「神経の興奮」まで知識を掘り下げる」では、静止電位活動電位を説明し、神経に電気が発生する仕組みを解説しました。

ポイントは、静止電位はKイオンによりコントロールされ、活動電位はNaイオンによりコントロールされている、ことです。これら2つのイオンは、世間ではミネラルと呼ばれ、ミネラルが不足すると神経系に異常が生じます。例えば、熱中症により、Naイオンが汗として体から排出されると、けいれんのような神経症状が出現します。ミネラルについては、スポーツドリンクの成分表を確認してみて下さい。

そして、今回の記事では神経の伝導について解説していきます。
まずは、神経の伝導を説明する前に、神経の興奮を簡単に振り返ってみます。

〜「神経の興奮」のポイント〜

  1. 神経が活動していない、いわゆる静止状態では、Kイオンが流出することにより静止電位が作られている。
  2. 神経に刺激が加わると、Naイオンが流入し、活動電位が発生(電気が発生)し、活動状態となる。
  3. 活動電位が発生することを神経の興奮と言う。興奮はわずか数ミリ秒間(1ミリ秒は、1秒の1000分の1なので、本当に一瞬)。

この神経の興奮のポイントを踏まえて、これから神経の伝導を解説していきます。

「神経の伝導」を国試レベルまで掘り下げる

神経の伝導を理解する上での予備知識として、神経の細胞膜には、以下の4つのトンネル(膜タンパク質)があり、物質のやり取りを行っています。ちなみに、膜タンパク質とは、細胞膜に組み込まれたタンパク質のことです。

〜神経の細胞膜に存在する膜タンパク質〜

  1. Na-Kポンプ:ATPを使って、Naイオンを外へ、Kイオンを内へ無理やり運ぶトンネル
  2. K漏洩チャネル常に開いているKイオン専用のトンネル
  3. 電位依存性Naチャネル:活動電位が発生した時に素早く開閉するNaイオン専用のトンネル
  4. 電位依存性Kチャネル:活動電位が発生した時にゆっくり開閉するKイオン専用のトンネル

この4つのトンネル(膜タンパク質)がセットで存在し、これらが軸索にズラーッと並んでいることを、まず、押さえて下さい。

そして、刺激により軸索の一部に活動電位が発生し内側がプラス(➕)となると、当然、発生した場所の隣はマイナス(➖)状態なので、マイナス→プラスに変換され、それが隣、また隣と、次々に変換されていきます。

このように、活動電位が発生(興奮)し、それが移動していくことを神経の伝導と言います。
そして、神経の伝導には3つの原則があります。

〜神経伝導の3つの原則〜

  1. 両側性伝導:刺激により発生した興奮は、左右両方向へ移動する。
  2. 不減衰伝導:発生した興奮は、衰えることなく一定に移動する。
  3. 絶縁性伝導:発生した興奮が、移動途中に隣の神経を興奮させることはない。

この3つの原則は、言葉だけは覚えているかもしれません。しかし、多くの人が神経の興奮の仕組みを理解せずに覚えてしまいがちです。そのため、しっかりと神経の興奮を理解した上で、神経の伝導を理解して下さい。

ちなみに、活動電位は、閾値を越えれば一定の値(約+20mV)まで電気を発生します。これ以上でも、これ以下でもありません。これを全か無の法則と言います。ここで登場した閾値とは、神経の興奮を起こさせるのに必要な最小の刺激のことです。電位依存性Naチャネルが開くのに必要な最小な刺激とも言えますね。

そして、活動電位が発生している間は、新たな刺激が加わってもその神経は、活動電位を発生することはありません。これを不応期と言います。補足として不応期は、以下の2つを覚えて下さい。

〜覚えるべき2つの不応期〜

  • 絶対不応期:活動電位が発生している時は、絶対に神経の興奮は起きない。
  • 相対不応期:活動電位の発生後、しばらくの間は、よほど強い刺激でない限り、神経の興奮は起きない。

不応期は横紋筋で見られ、骨格筋では短く、心筋では長いです。だから、筋はどんな状況にも素早く、柔軟に対応が可能だし、心臓は一定のリズムを続けることが可能なのです。

ちなみに、人間の細胞膜はわずか0.01μmです。1μmは、1mの100万分の1なので、この中で-70mVの電気が発生しているということは、相当大きな電気が発生していることになります。

「跳躍伝導」を掘り下げて考える

神経の伝導軸索で起こっています。
復習ですが、以前、

Q .「神経(ニューロン)は、何で構成されていますか?」4つ+1つで答えて下さい。

という問題を、別の記事「神経系とは何か?まずは、神経系の基本を大まかに理解し、「神経の興奮」まで掘り下げていく」の中で出しました。覚えているでしょうか?

そして、この時+1は髄鞘であることを説明しました。
ちなみに、髄鞘が存在する神経を有髄神経髄鞘の存在しない神経を無髄神経でしたね。有髄神経の場合、髄鞘が巻き付いていない軸索に、先ほど復習しました①Na-Kポンプ、②K漏洩チャネル、③電位依存性Naチャネル、④電位依存性Kチャネルの4つが1セットで存在し、それが髄鞘部分を除いて軸索表面にズラーッと並んでいます。

無髄神経は、よく各駅停車の電車に例えられます。活動電位が発生したら、各駅停車の電車のごとく興奮が伝わり、ゆっくり最終目的地に到着します。伝導速度は遅いです。

一方、有髄神経はどうでしょう?
髄鞘は脂肪でできています。つまり油です。油は電気を通しません(電気的絶縁体)。髄鞘と髄鞘の間の空間ランビエの絞輪と言いました。ランビエの絞輪は髄鞘が巻き付いていない場所なので、電気を通します(電気的非絶縁体)。

有髄神経は、よく特急列車に例えられます。活動電位が発生したら、特急列車のように田舎の駅を飛び越えながら興奮が伝わり、あっという間に最終目的地まで到着します。この時の、田舎の駅は髄鞘の中にあり、特急列車が止まる駅はランビエの絞輪です。当然、伝導速度は速いです。

有髄神経の伝導様式を跳躍伝導と言います。神経伝導の3原則と分けて整理して下さい。

〜有髄神経と無髄神経のまとめ〜

  • 有髄神経:伝導速度は速い。主に、中枢神経や末梢神経の感覚神経運動神経に存在。
  • 無髄神経:伝導速度は遅い。主に、末梢神経の一部である自律神経に存在。

また、髄鞘には、中枢神経と末梢神経では種類が違います。

〜中枢神経と末梢神経の髄鞘の違い〜

  • 中枢神経の髄鞘オリゴデンドロサイト希突起膠細胞)と言います。
  • 末梢神経の髄鞘シュワン細胞と言います。

この基礎医学の知識を応用して、臨床医学(病気)の知識を国家試験では問われます。すなわち、髄鞘が自分の免疫システムで破壊されてしまう病気(疾患)を脱髄疾患と言いますが、国家試験では中枢神経系の脱髄疾患である多発性硬化症末梢神経系の脱髄疾患であるギランバレー症候群の病態を整理しておいて下さい。出題頻度が高い疾患です。それだけ、理学療法の対象になる病気なのでしょう。これらの病気は、自己免疫疾患と言います。関節リウマチも滑膜がやられる自己免疫疾患ですね。

中枢神経系や末梢神経系の髄鞘がやられてしまうということは、別の記事で筋収縮のメカニズムがわかれば、症状が推測できると思います。主に運動麻痺ですね。

ここまで、跳躍伝導までの知識が神経の伝導の基礎です。これは、神経生理の基本中の基本です。理解できなかったら、何度も読み返して、イメージができるまで、また、友達や教員に説明できるまでになって下さい!

ちなみに、トリカブトやフグ毒のことを知っていますか?
ちょっとした雑学です。

トリカブトに含まれるアコニチンという物質は、電位依存性Naチャネルを開きっぱなしにしてしまいます。そうなると、もうわかりますよね?
Naイオンがどんどん細胞内に流入し、神経は常に興奮しっぱなしです。そうなると、例えば、けいれんなどの神経症状が出てしまいます。

逆に、フグ毒に含まれるテトロドトキシンという物質は、電位依存性Naチャネルを閉じっぱなしにしてしまいます。そうなると、わかりますよね?
Naイオンの細胞内への流入が止まり、神経は興奮しません。そうなると、例えば、神経麻痺などの症状が出てしまいます。

トリカブトとフグ毒は全く逆の作用なのです(拮抗作用)。

また、局所麻酔薬のキシロカインという薬は、やはり、Naチャネルを阻害するので、痛み刺激を抑制できるのです。

なかなか理解できない「脱分極」の話

最後に、学生さんがなかなか理解できない脱分極の話です。

神経が活動していない、いわゆる静止状態の時は、細胞内がマイナスで、細胞外がプラスになっています。+極と−極が、細胞の内外で分かれている、これを分極と言います。これが基準です。

そして、神経に刺激が加わると、いわゆる活動状態の時は、今度は、細胞内がプラスで、細胞外がマイナスになります。これは分極という基準から逸脱した状態、これを脱分極と言います。脱分極とは、神経が興奮すること、と覚えて下さい。

さらに、電位依存性Naチャネルが閉じると、Kイオンの細胞外への流出が起きていますので、再び、細胞内がマイナスで、細胞外がプラスになっていきます。これは再び基準である「分極」状態に戻っていく、これを再分極と言います。再分極とは、神経の興奮がさめて元の状態に回復すること、と覚えて下さい。

電位依存性Kチャネルはすぐには閉じないので、Kイオン細胞外への流出は、さらに続きます。最初の基準よりも過剰にマイナスとなった状態、これを過分極と言います。

〜脱分極・再分極・過分極のまとめ〜

  • 分極:静止状態(細胞内が➖、細胞外が➕)で、➕極➖極が、細胞の内外で分かれている状態。これが基準。
  • 脱分極:活動状態(細胞内が➕、細胞外が➖)で、分極という基準から逸脱した状態。この時、神経は興奮する。
  • 再分極:電位依存性Naチャネルが閉じ、再び基準である「分極」状態に戻ってる状態。この時、神経の興奮が終わり元の状態に回復している。
  • 過分極:電位依存性Kチャネルが閉じず、Kイオン細胞外への流出が続き、最初の基準よりも過剰にマイナスとなった状態。

脱分極・再分極・過分極については、教科書にグラフ図がありますし、国家試験の文言としてよく出題されますので、理解しておいて下さいね。

まとめ

神経の伝導を理解するには、まず、静止電位活動電位の知識を使って、神経に電気が発生する仕組みを理解します。ポイントは静止電位Kイオンによりコントロールされ、活動電位Naイオンによりコントロールされている、ということです。

そして、Kイオンが流出することにより静止電位が作られている、いわゆる静止状態から、神経に刺激が加わると、Naイオンが流入し、活動電位が発生(電気が発生)し、活動状態となります。この活動電位が発生することを神経の興奮と言いました。

この興奮は、神経の細胞膜に並んでいる4つのタンパク質(①Na-Kポンプ、②K漏洩チャネル、③電位依存性Naチャネル、④電位依存性Kチャネル)によって制御されています。そして、軸索の一部に活動電位が発生し内側がプラスとなると、発生した場所の隣が「➖→➕」に変換され、その興奮が、軸索全体に及びした。そして、この興奮が移動していくことを神経の伝導と言いました。

わからなければ、図を描きながら、友達に説明できるようになるまで、理解しておいて下さい。

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