「神経の構造」を理解し、そこで起こっていることを理解する
神経系の勉強について、大まかな全体像を理解することができたでしょうか?
この大まかな全体像については、別の記事「神経系の勉強はここから! PTとして知っておくべき神経系の全体像と筋収縮までの大まかな流れを理解する」で解説しました。
全体像の理解にあまり自信がない人は、教科書やクエスチョンバンク(QB)を見ながら、神経系に登場する神経を、整理しながら、しっかり把握することから始めて下さい。
焦らず、基本をしっかり身につければ、後々勉強が楽になります。
そこで今回は、全体像を理解した上で、この知識を使いながら筋が収縮するまでの一連の流れを詳細に解説していきます。上の記事で説明しました「どのくらい大きな“森”なのかを把握してから、そこにある“木”を1つ1つ見ていく」イメージの、“木”を1つ1つ見ていく段階に入ります。
そのため、次にやるべきことは神経の構造の理解です。大まかな神経構造を把握し、そこから知識を掘り下げていきます。
それでは、また質問です。
Q .神経(ニューロン)は、何で構成されていますか?4つ+1つで答えて下さい。
答えは、細胞体、樹状突起、軸索、神経終末です。+1は髄鞘です。
神経(ニューロン)とは、細胞体から短い樹状突起と長い軸索の2つの突起物が出ている構造です。そして、軸索に髄鞘がある有髄神経と髄鞘がない無髄神経があります。これが神経構造の全体像です。まずこれを頭の中でイメージして下さい。ここから知識を掘り下げていきます。
人体に何らかの刺激が入った時、神経内に電気が発生し、この電気が移動することで情報が伝えられます。それでは、電気とはどのようなメカニズムで発生するのでしょうか?
ここで重要なポイントは、神経に電気を発生させるためは前提条件があるということです。
それが静止電位です。
「静止電位」を発生させるための前提条件とは?
神経系の情報のやり取りは、電気か化学物質しかありません。神経内での情報のやり取りは電気を発生させることで行うため、ここでは神経内に電気を発生させるメカニズムについて解説していきます。そして、電気を発生させるためには、前提条件を押さえておくことが必要です。
それが静止電位です。
静止電位を理解するには、いくつか予備知識が必要です。
まずは、チャネルとポンプを理解して下さい。
〜神経の内外から物質をやり取りするための重要なタンパク質〜
- チャネル:
エネルギーを使わず、濃度勾配に従って物質をやり取りするトンネル(タンパク質) - ポンプ:
エネルギーを使って、濃度勾配に逆らって物質をやり取りするトンネル(タンパク質)
チャネルやポンプは、細胞膜に存在します。ちなみに、これらのトンネルは、タンパク質です。
エネルギーとは、ATP(アデノシン三リン酸)です。車を動かすガソリンみたいなものと思って下さい。
濃度勾配とは、濃度の高低差のことです。通常、物質は「濃い→薄い」へ移動します(自然界の大原則)。これを拡散(受動輸送)と言います。例えば、コーヒーにミルクを注いでみて下さい。ミルクはコーヒーより濃度が濃いため、自然と広がる光景を見ることができるでしょう。つまり、濃度勾配に従うとは、物質が「濃い→薄い」へ移動することです。
これを生体で見てみましょう。
生体では、細胞の内側にはKイオンが多く存在し、外側にはKイオンが少し存在します。細胞膜にKイオンしか通さない専用のトンネル(チャネル)でつなぐと、濃度勾配に従って、濃度の濃い内側のKイオン→薄い外側へと移動し、内外の濃度を均等にしようとします。内側のKイオンが拡散した結果です。
一方、ポンプは全く逆の働きをします。先程、例に出したKイオン。細胞膜をポンプでつなぐと、エネルギー(ATP)を使うことで、濃度勾配に逆らって、濃度の薄い外側のKイオン→濃い内側へ移動し、内側の濃度がさらに濃くなります。このような物質の移動を能動輸送と言います。
〜用語の確認:受動輸送と能動輸送のまとめ〜
- 受動輸送:エネルギーを使わず、濃度勾配に従って、物質を移動させる輸送方法。物質は濃度の「濃い→薄い」方向に移動する。生体では拡散とも呼ばれ、チャネルで行われる。
- 能動輸送:エネルギー(ATP)を使って、濃度勾配に逆らって、物質を移動させる輸送方法。物質は濃度の「薄い→濃い」方向に移動する。生体ではポンプで行われる。
チャネルとポンプの仕組みを理解しておけば、静止電位を発生させるメカニズムを理解できます。ひいては、神経(ニューロン)内に電気が発生するメカニズム、すなわち活動電位を発生させるメカニズムも理解できます。
なかなか理解できない「静止電位」とは?
ここからは、静止電位を発生させるメカニズムについて解説していきます。
まずは、静止電位を理解する上でポイントとなる、静止電位に関わるチャネル、ポンプ、イオンについて理解していきましょう。静止電位に登場する物質は以下の通りです。
〜静止電位を理解する上で覚えておきたいチャネルとポンプ〜
- K漏洩チャネル(カリウムろうえいチャネル):
Kだけを通すトンネル。常に開きっぱなしのトンネル。 - Na-Kポンプ(ナトリウム-カリウムポンプ):
Naを細胞の外へKを細胞の中へエネルギー(ATP)を使って一方的に移動させるトンネル。エネルギーが無くなるまで、動き続ける。
細胞内外に存在する主なイオンについても覚えて下さい。
〜細胞内外に存在する重要なイオン〜
- Naイオン(ナトリウムイオン)とKイオン(カリウムイオン):
いずれも、プラスの電気を持ったイオン。これらのイオンは、一般的にはミネラルと言われている。 - Clイオン(塩化物イオン・クロライドイオン):
マイナスの電気を持ったイオン。NaイオンやKイオンと同様ミネラルの一種。食塩はNaClで表され、生体内では分解されてNaイオンとClイオンとして存在する。
では解説していきましょう。
通常、細胞内外には、主にNaイオンとKイオンのようなプラスイオンとClイオンのようなマイナスイオンが存在し、体液のバランスを保っています。
神経細胞では、細胞の内側にKイオン、外側にNaイオンが、Na-Kポンプの強制的な物質輸送(能動輸送)により維持されています。教科書的には、1回の輸送でNaを3つ外に出し、Kを2つ内に入れるのを同時に行っています。だから、何も刺激が入っていない細胞は、常に外側にNa、内側にKが多い状態に保たれています。
ただ、Na-Kポンプの横にK漏洩チャネルがあることにより、せっかく中に入ったKイオンは、濃度勾配に従って(拡散して)、外に出てしまうのです。すると、もともと細胞外にあるNaイオン、K漏洩チャネルにより外に出たKイオンによって、外側のプラスのイオンが内側に比べて多く存在することになります。ここがポイントです。
神経の細胞膜は、リン脂質二重層により電気を通さない絶縁体です。KイオンがK漏洩チャネルによって外側に出てしまうと、細胞内のプラスイオンが減ってしまいます(細胞外にはプラスイオンが増える)。細胞内にはClイオン(マイナスイオン)も存在するため、結果として、細胞の外側はプラス、内側はマイナスの状態が作られるのです。
そして、Kイオンが外側に放出されるのは、細胞内が-70mVになるまでです。これは、細胞外を0mVとして算出された数値です。細胞内が-70mV程度でKイオンは、外側にたくさんあるプラスイオンの電気的な反発により放出が止まります。この細胞外がプラス、細胞内がマイナスといった電気的な偏り(電位差)が生まれる状態のことを静止電位と言います。
神経内に電気を発生させるためには、神経の内側がマイナス極、外側がプラス極のように別々に配置しておく必要があります。なぜなら、プラスとマイナスは互いに引き合うため、そこには電気的な力(クーロン力)が存在しているはずです。したがって、静止電位は神経内に電気を発生させるための前提条件になるのです。ポイントは、Kイオンが静止電位をコントロールしていることです。
静止電位については、イギリスの科学者がイカの神経細胞内に電極を刺して計測したことからわかりました。そして、この功績により、ノーベル賞(医学・生理学)を受賞したそうです。
「活動電位」神経の興奮
静止電位については理解できたでしょうか?
静止電位とは、細胞内に電気が発生していない状態です。そして、静止電位は、Kイオンによりコントロールされていることが、上の解説で理解できたと思います。
次に、細胞内はどのようにして電気を発生させているのか、ここでは活動電位について考えていきたいと思います。
今回、登場する人物(組織)は、以下の通りです。
〜活動電位を理解する上で覚えておきたいチャネル〜
- 電位依存性Naチャネル(でんいいぞんせいナトリウムチャネル):
電気刺激によって、門が開くNa専用トンネル。刺激がない時は、門は閉まっている。開閉パターンは、素早く開き、素早く閉じる。 - 電位依存性Kチャネル(でんいいぞんせいカリウムチャネル):
電気刺激によって、門が開くK専用トンネル。刺激がない時は、門は閉まっている。開閉パターンは、ゆっくり開き、ゆっくり閉じる。
静止電位の復習として、以下にポイントをまとめます。
〜静止電位が作られるメカニズム〜
- 通常、生体は細胞の内側にKイオン、外側にNaイオンが、Na-Kポンプの能動輸送によって維持されいる。
- しかし、K漏洩チャネルがあることで、せっかく中に入ったKイオンが、濃度勾配に従って拡散し、外に出て行ってしまう。
- つまり、Kイオンによって、細胞の内側は外側に比べて相対的にマイナス(約-70mV)の状態が作られている。これを静止電位と言う。
さて、本題です。
神経細胞膜に何らかの刺激(痛み刺激など)が加わると、細胞膜にゆがみが生じます。このゆがみは、電気的に保たれたバランスを崩すものです。つまり、細胞内のマイナスがプラス方向に変化してしまう反応です。
細胞膜への刺激の強度が、ある程度の強さに達すると・・・つまり、-70mV→-50mVくらいに達すると、まず、電位依存性Naチャネルが素早く開きます。すると、どうでしょう?もともと細胞の外側にはNaイオンが多く存在していました。そこで、電位依存性Naチャネルが素早く開いた瞬間、外側のNaイオンが濃度勾配に従って拡散し、一気に内側へ流入してきます。
そうなると、今度は外側に対して内側がプラスの状態が作られ、これにより細胞内に電気が発生するのです。この外側に対し内側がプラスになった状態のことを活動電位と言います。そして、活動電位が発生することを「神経の興奮」と言います。
ポイントは、活動電位はNaイオンがコントロールしていることです。
先程説明した、“ある程度の強さに達する”とは閾値に達するという意味です。ちなみに、神経の興奮が起こる最低限の強さ(強度)を閾値と言います。この場合、刺激が閾値に到達すると電位依存性Naチャネルが開き、Naイオンが細胞内に流入すると活動電位が発生するのです。閾値という言葉も覚えて下さい。
電位依存性Naチャネルは素早く開き、素早く閉じるので、Naイオンの流入はすぐに止まります。この時、同時に電位依存性Kチャネルがゆっくり開き、ゆっくり閉じようとしているので、Kイオンは濃度勾配に従って拡散し、内側から外側へ流出していきます。そして、電位依存性Kチャネルが閉じた時には、細胞内は元の静止電位の状態に戻っていきます。
さあ、ここまで理解できたでしょうか?
まとめ
神経の興奮のポイントは、「静止電位」はKイオンによりコントロールされ、「活動電位」はNaイオンによりコントロールされている、ということです。これら2つのイオンは、世間ではミネラルと呼ばれます。つまり、ミネラルが不足すると神経系に異常が生じます。熱中症は、汗でこれらミネラルがなくなるので、神経系に異常が生じるのです。
以下に神経の興奮を簡単にまとめておきます。
〜「神経の興奮」を理解する上でのポイント〜
- 神経が活動していない、いわゆる静止状態では、Kイオンが流出することにより静止電位が作られている。
- 神経に刺激が加わると、Naイオンが流入し、細胞内がプラスとなり活動電位が発生(電気が発生)する。
- 活動電位が発生することを神経の興奮と言う。興奮はわずか数ミリ秒間である。ちなみに、1ミリ秒は、1秒の1000分の1なので、本当に一瞬の出来事。
わかりにくいようでしたら、図を描いてみて下さい。そして、静止電位と活動電位を説明できるようになって下さい。国家試験の勉強は、とにかくイメージ作りです。
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