伸張反射のメカニズムを理解する!
別の記事「小脳機能を理解し、リハビリに活かそう!」では、脊髄小脳路と小脳との関係を解説しました。うまくつながったでしょうか?
脊髄小脳路が発動するのは、急にバランスが崩れて転倒しそうになった時など、過度に筋が伸長しないよう筋紡錘がセンサーとして刺激されてからです。
そこで、ここでは、筋紡錘を刺激して起こる伸張反射について解説していきたいと思います。
伸長反射に出てくる組織は、以下の通りです。
〜伸張反射を理解する上で覚えておきたい用語〜
- 筋紡錘:筋の長さの変化を感知する感覚受容器
- Ⅰa線維:筋紡錘に接続し脊髄後角に向かう感覚神経
- α運動ニューロン:脊髄前角から骨格筋に向かう運動神経
- 骨格筋:短縮することで関節運動を起こす組織
確認しておきますが、筋は錘内筋線維と錘外筋線維に分類することができます。
〜覚えておきたい錘内筋線維と錘外筋線維の違い〜
- 錘内筋線維とは、筋紡錘にある筋線維のことです。
- 錘外筋線維とは、骨格筋にある筋線維のことです。
伸張反射は、臨床的には腱反射と言われます。打腱器で、例えば膝蓋腱を叩くと、一瞬、腱は伸ばされ、その後、膝が伸展しますよね。腱は、筋の両端にある組織であるため、そこが伸ばされるということは、当然、腱と腱の間にある筋は伸ばされます。ピンと張ったゴムを叩くと、そのゴム自体が一瞬伸びるイメージです。伸張反射は、長さの変化に敏感に反応する筋紡錘が、筋のわずかな”伸び”を感知して興奮し、発動するのです。
それでは伸張反射のメカニズムです。やはり、順番を覚えて下さい。
〜覚えておきたい「伸張反射」のメカニズム〜
- 腱を叩くことで筋が伸ばされ、筋紡錘が興奮する。
- 興奮した筋紡錘はⅠa線維に興奮を伝える。
- Ⅰa線維の興奮は、シナプス間を伝達し、α運動ニューロンに興奮が伝わる。
- α運動ニューロンの興奮は、神経筋接合部を伝達し、筋に興奮が伝わる。
- 刺激された筋が収縮する。
この順番は、図を書きながら必ず覚えて下さい。
私は、臨床的に大きく2つの目的で腱反射を行います。
まず、片麻痺の患者さんの麻痺の程度を確認する時に行います。腱反射の程度により麻痺の回復過程がわかるからです。また、高齢者に対して、その人が転倒しやすいかどうかの判断材料として行います。筋と神経系の反応の程度がわかるからです。
筋紡錘に関しては、核袋線維、核鎖線維などの言葉も出てきます。これらをざっくり説明すると、核袋線維と核鎖線維が筋紡錘を構成している、と考えて下さい。それより、まずは伸張反射のメカニズムを図で書いて説明できるまで勉強し、国試問題を解くときにこのイメージが浮かぶことが目標です。
相反神経支配のメカニズムを理解する!
前述の「伸張反射」のメカニズム、イメージできたでしょうか?
伸張反射と言ったら、この図!・・・と言えるくらいの参考図を教科書などから参考にして、自分で再現できるようにして下さい。
伸張反射を簡単にまとめますと、
〜覚えておきたい!伸張反射のまとめ〜
- 2本の神経、1つのシナプスでの反射弓を作る。
(求心性のⅠa感覚神経線維と遠心性のα運動神経線維) - 中枢は脊髄。
伸張反射は、不意に腱で叩かれた筋がこれ以上伸びて、切れないように働く防御システムです。ゆっくり伸ばされれば伸張反射は発動されません。一瞬の筋の伸びを筋紡錘が感知し、切れないように筋収縮するのです。収縮するのは、叩かれた筋です。
しかし、スムーズに筋収縮するには、収縮した筋とは反対側にある筋が緩んでいなければ運動は起きません。例えば、膝蓋腱反射は、膝蓋腱を素早く叩くことで大腿四頭筋が収縮し、膝が伸展する反射です。この時、ハムストリングスも収縮してしまうと、膝伸展という動作は生まれませんよね。ハムストリングスが弛緩しているので、大腿四頭筋が収縮した時、円滑に膝が伸展するのです。これを相反神経支配と言います。
相反神経支配に出てくる組織は、伸張反射のメンバーである筋紡錘、Ⅰa線維、α運動ニューロン、主働筋です。そして、それらに加えて、以下の5&6の組織が加わります。
〜相反神経支配を理解する上で覚えておきたい用語〜
- 筋紡錘:筋の長さの変化を感知する感覚受容器
- Ⅰa線維:筋紡錘に接続し脊髄後角に向かう感覚神経
- α運動ニューロン:脊髄前角から骨格筋に向かう運動神経
- 骨格筋:短縮することで関節運動を起こす組織
- 抑制性介在ニューロン:この神経が興奮することで、伝達した神経・筋は興奮しない。
- 拮抗筋:主働筋の反対側にある筋肉
それでは相反神経支配のメカニズムを順を追って説明していきます。やはり、順番を覚えて下さい。途中まで、伸張反射と同じです。
〜覚えておきたい「相反神経支配」のメカニズム〜
- 腱を叩くことで筋紡錘が伸ばされ、筋紡錘が興奮する。
- 興奮した筋紡錘はⅠa線維に興奮を伝える。
- Ⅰa線維の興奮は、シナプス間を伝達し、主働筋を支配しているα運動ニューロンに興奮が伝わる。同時に、抑制性介在ニューロンに興奮を伝える。ここでは、一本の道が二股に分かれる。つまり、一方が主働筋へ、もう一方が拮抗筋へ行く。抑制性介在ニューロンは、拮抗筋に向かう道の一部。
- 主働筋のα運動ニューロンの興奮は、神経筋接合部を伝達し、主働筋に興奮が伝わり、刺激された主働筋が収縮する。一方、抑制性介在ニューロンが働くと、拮抗筋を支配しているα運動ニューロンは抑制的に働く(過分極)。その結果、拮抗筋は弛緩する。
これを相反神経支配と言います。この順番は、必ず覚えて下さい。
ポイントは、以下の通りです。
〜覚えておきたい!相反神経支配のまとめ〜
- Ⅰa線維は、途中で二股に分かれる。
- 一方は、筋紡錘から主働筋までの間に2本の神経と1つのシナプスを構成し、単シナプス反射に働く。
- もう一方は、筋紡錘から拮抗筋までの間に3本の神経と2つのシナプスを構成し、多シナプス反射に働く。
相反神経支配は、反射だけでなく、人間が円滑に運動を行うために必要な仕組みです。
臨床的には、ダイナミックストレッチとかは、この仕組みを使ったものです。自分で動かしながら拮抗筋をストレッチします。
PT国試勉強は、できるだけ自分の身のまわりの出来事に関連させて勉強していけば、忘れない知識となります。必ず、この文章を読みながらイメージできるようにして下さい。
Ⅰb抑制を理解する!
伸張反射と相反神経支配は、セットで覚えて下さい。必ず、図を書いて説明できるように!
これは、何度も言い続けます。
さて、以前、解説した相反神経支配では、抑制性介在ニューロンが登場しました。そして、この神経が働くと、シナプスの後ろの細胞が抑制的に働くことを説明しました。
この抑制性介在ニューロンが登場する、もう一つのPT国試頻出問題がⅠb抑制です。
Ⅰb抑制は、自己抑制とか自原抑制とも言われます。
Ⅰb抑制で覚えるべき組織は、以下の通りです。
〜Ⅰb抑制を理解する上で覚えておきたい用語〜
- 腱紡錘:腱の長さの変化を感知する感覚受容器
- Ⅰb線維(Ⅰbニューロン):腱紡錘に接続し脊髄後角に向かう感覚神経
- 抑制性介在ニューロン:この神経が働くと、シナプスの後ろの細胞は抑制的に働く。
- α運動ニューロン:脊髄前角から骨格筋に向かう運動神経
- 骨格筋:短縮することで関節運動を起こす組織
Ⅰb抑制のメカニズムを順を追って説明すると、
〜覚えておきたい「Ⅰb抑制」のメカニズム〜
- 筋をゆっくり伸ばすことで、腱紡錘が興奮する。
- 興奮した腱紡錘はⅠb線維に興奮を伝える。
- Ⅰb線維の興奮は、シナプス間を伝達し、抑制性介在ニューロンに興奮が伝わる。
- 抑制性介在ニューロンは、シナプスの後ろにあるα運動ニューロンの働きを抑制する。
- α運動ニューロンが抑制的に働くことで、1で伸ばされた腱を持つ筋が弛緩する。
この順番は、必ず覚えて下さい。
Ⅰb抑制のポイントは、
〜覚えておきたい!Ⅰb抑制のまとめ〜
- 3本の神経、2つのシナプスでの反射弓を作る。
→求心性のⅠa感覚神経線維、抑制性介在神経線維、遠心性のα運動神経線維 - 中枢は脊髄。
Ⅰb抑制は、臨床的には、以下の時に使う知識です。
〜覚えておきたい!Ⅰb抑制の臨床的活用法〜
- 折りたたみナイフ現象
→片麻痺の患者さんのROMexは、この知識が裏付けとしてあります。 - スタティックストレッチ
→アスリートのクールダウンは、この知識が裏付けとしてあります。
確認ですが、以前、「神経系とは何か? 神経系の基本と「神経の興奮」を理解する。」のところで、閾値についてお話ししました。すなわち、活動電位を発生させる最低限の強度のことを閾値と言いました。
では、筋紡錘と腱紡錘、とちらが閾値が低いのでしょうか?
答えは、筋紡錘です。閾値が低いと、すぐ反応します。よく「怒り」の閾値が低い人は、何気ないことでもすぐ怒りだしますよね。だから、筋を伸ばそうとした時、打鍵器で腱を叩くような、素早い刺激では筋紡錘が興奮します。また、じわーっとゆっくり筋を伸ばすような刺激では腱紡錘が興奮するのです。
α-γ連関を理解する!
これまで、筋紡錘がらみの知識を、脊髄小脳路から始まり、Ⅰb抑制までの間でお話してきました。なんとなく、イメージできたでしょうか?
これらは、これから疾患を理解していくための土台です。土台ができたら、あとは、臨床実習やPT国試の問題演習を重ねながら、枝葉の知識を付け加えていって下さい。
今回は、この分野の最後、α-γ連関です。
結論から言うと、α-γ連関とは筋緊張をコントロールしている仕組み(メカニズム)です。
筋緊張とは、簡単に言うと筋の”ハリ”です。α-γ連関とは、筋の”ハリ”を作っている仕組みです。
少しずつ、順を追って説明していきます。
筋紡錘は細長い構造をしていますね。教科書で確認して下さい。そして、筋紡錘には2本の神経がつながっています。
〜α-γ連関を理解する上でのポイント①〜
- 筋紡錘の真ん中には、脊髄に情報を伝える「Ⅰa線維(Ⅰaニューロン)」(求心性)がつながっています。
- 筋紡錘の両端には、脊髄からの情報を伝える「γ運動ニューロン」(遠心性)がつながっています。
働きとしては、
〜α-γ連関を理解する上でのポイント②〜
- 筋紡錘が伸ばされる→Ⅰa線維が興奮(伸張反射でやりました)
- γ運動ニューロンが興奮→筋紡錘が収縮
※ちなみに、「α運動ニューロンが興奮→筋(錘外筋)が収縮」でした。
ここで、注意してほしいことがあります。筋紡錘が収縮です。
これは、どんな時に起こるのでしょうか?
単純に筋が収縮すると、筋(錘外筋)の長さは短くなります。この時、筋紡錘も同時に短くなり、筋紡錘はゆるみます。しかし、筋紡錘は中心部分の感度を敏感にさせておきたい性質があるので、常に適度な緊張を保っておきたいのです。このまま筋紡錘が短い状態で、筋紡錘がゆるんだままだと、感度が鈍くなります。
そこで登場するのが、γ運動ニューロンです。
筋紡錘は両端が収縮するようになっています。そして、γ運動ニューロンは筋紡錘の両端に付着しています。したがって、γ運動ニューロンが興奮すると、筋紡錘は伸びて、元の長さに戻るのです。
よって、α運動ニューロンが働いて、筋(錘外筋)が短くなっても、γ運動ニューロンが働くことで、筋紡錘が収縮して適度な緊張を維持するので、短縮した筋は、短くなっても筋緊張(ハリ)を保つことができるのです。これをα-γ連関といます。
すなわち、α運動ニューロンが興奮する時、γ運動ニューロンも同時に興奮することで、筋紡錘は一定の長さに保つことができるのです。これがわかると、片麻痺でみられる筋緊張亢進の仕組みが理解できます。
まとめ
今回、解説した伸張反射、相反神経支配、Ⅰb抑制、α-γ連関は、全て脳を介さない(意識を伴わない)反応です。この4つは臨床上とても重要です。そのような項目がPT国試には出題されるのです。それぞれ、図を書いて説明できるようにして下さいね!
コメント